読書好きな大学生を増やしたい! vol.6 ~何者~

こんにちは。GTPブログ担当工藤(通称:たけ)です。今回は読書企画第6弾です。

前回の投稿(https://gtp.ph.icc-npo.com/?p=1847)に引き続き、

朝井リョウさんの作品「何者」の紹介です。

前回も書きましたが、朝井リョウさんの作品の特徴として、

言葉にして表現されたくもない自分の心の奥を、表現されてしまう。

というのが、私が感じている簡単な朝井評です。

今回、この本を紹介してくれるのは、上野弘晶さんです。

上野さんは「何者」を読んだ上で自身のことを以下ように表現されています。

「教職に就く」ことで社会の中で何者かになれたように感じることができて,そして,それによってとりあえずは安心することが出来るからなのではないかな

と、なかなか厳しいところを、自身でついています。

「何者かになることで、とりあえずは安心したいだけ。」という心の奥の声にうすうす気づいている方

は、そっと、この本を覗いてみることをオススメします。

自己紹介

初めまして。上野 弘晶(うえの ひろあき)です。学部2年時にGTP 3rd batchに参加させて頂きました。現在は大学院修士課程の1年生です(2020年7月現在)。

さて,私はこの自己紹介というのがどうも苦手です…。

他者に自己を紹介するという行為は社会生活を営むうえで非常に重要であると思いますし,それをうまく遂行できる能力を持ちあわせているということは大変望ましいことだとも思います(面接などでは卒なくできるのですが…)。

しかし,それはよくよく考えてみると,どうも表面的で,本質的に自分がどのような存在であるのかということを正確に紹介できていないように思うのです(みなさんも,そのようなご経験はないでしょうか…?)

(セブの空港の夕日)

まあ,そんなわけで,ここでは自己紹介を控えさせていただこうかなと思います。どこか表面的で取り繕ったような余所行きの自己紹介は拙文文末のprofileに記載しましたので,そちらをご参照ください。

ただ,私という存在がどのような存在なのかということは,読み手のみなさんが,この後の文章を読むことを通してめいめいに解釈していただければと思います。

既に「面倒くさそうなヤツ」だと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが,最後までお付き合いしていただけると幸いです。

作品紹介

さて,そんな私が,今回紹介させていただく作品は,朝井リョウさんの『何者』という作品です。

出典**¹

『何者』は2012年11月30日に,新潮社より発刊された青春小説(?)です。あらすじを以下に記載しました。

就職活動を目前に控えた拓人は,同居人の光太郎の引退ライブに足を運んだ。

光太郎と別れた同級生の瑞月とそこで再会する。

瑞月の留学仲間の理香が拓人たちと同じアパートに住んでいると分かり,理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として理香らの部屋に集まるようになる。

だが,SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする,本音や自意識が,彼ら彼女らの関係を次第に変えていく…。

[**²を一部編修]

この作品は,直木賞にも選ばれ,映画化もされているためご存知の方も少なくないかと思います。それでも,“あえて”この場をお借りしてご紹介させて頂きたいのには,大きく2つの“個人的”な理由があります。

1つには,この作品が,

“私がGTPに参加することを後押しした作品”

であったためです。

この作品は,主人公の「拓人」の視点で描かれた物語です。

彼は,いつも周囲の人間を“客観的”に観察して,その観察結果に基づく“分析”を周囲の人物やtwitter上の不特定多数の人間に向けて(得意げに)披露したり,また,自分のことを棚に上げて周囲の人間を“内心”嘲っているという様子が描かれています。

当時は,そうした彼のあり様にどこか自分と重なる部分があると感じました。

いわゆる“意識高い系”の大学生,例えば,「海外ボランティアへ参加した」,「学生団体に所属して頑張っている」,「ビジネスイベントや講演会などに参加していろいろな人とつながっている」といった類のことをSNSなどでアピールしていた人たちのことをどこか冷ややかに眺めていました。

「成果を伴わないような何かを頑張っているアピール」というのは実に空虚であると感じていたのです。正直,そうした考えは今もまだ残っています。

しかし,この作品の中にでてくる

とあるセリフ(後ほど紹介)を耳にしてはっとさせられました。

というよりも

「グサッ」ときました。

自分の平凡な大学生活の何かを変えたいという願いは当時から持ってはいたものの,何をすれば良いのか分からずに足踏みをしていた自分にとっては,このセリフは,かなり効果があったようで,GTP 3rd batch参加へのお誘いの話と,最初に『何者』の映画を見た時期が重なったこともあり,私は重い腰を上げてGTP 3rd batchに参加することができたのでした。

もう一つは,この作品が

これからの自分の進路選択について,ひいては生き方について考える際に繰り返し何度も見てしまう(読んでしまう)ような作品

だからです。

現在,私は大学院修士課程の1年生です。

学部4年時には就職活動や教員採用試験を受けるなどは一切していませんでした。大学院へ進学することを既に決めていたので,そのための準備しかしていませんでした。そして,大学院修士課程を修了した後は当然のごとく公立の学校の教員になるつもりでいました。

しかし,その進路には少し迷いがあります。

学部の4年間(特にGTPに参加して以降)に学習支援ボランティアや授業のTA(Teaching Assistant)として様々な学校を訪れました。訪れた学校で教職の魅力と大変さの両方を知ることができました。

そのうえで,改めて自分はどうして教職に就きたいと思ったのかと考えました。

例えば,私は,新しいことを学ぶことが好きです。そして学んだことを人に紹介したり,意見が割れるような重要なテーマについて一緒に考えるという営みを大変に楽しいと感じます。

しかし,そうしたことは

教職に就かずとも実現することが可能です。

それでも,教職を目指していたのは,

おそらく

「教職に就く」ことで社会の中で何者かになれたように感じることができて,そして,それによってとりあえずは安心することが出来るからなのではないかな

と思いました。

周知のように,日本の学校教員の多くは公務員ですし,また,基本的に終身雇用ですから,一度教職に就いてしまえば(教育行政への異動や転職などの可能性はあるが)定年まではずっと(職業上は)教員として生きることになるでしょう。

もちろん,人は一元的な存在ではありませんから,時間的・社会的文脈が異なれば,異なる「私」でもあるでしょう。そうした意味で,私たちの自己というのは多元的であるかもしれません。

しかし,

そうした多元的な自己を貫く,オーセンティック(本質的)な「何か」

を私たちは持っているのではないかと思うのです。

職業(特にファーストキャリア)を選択する上で,この「何か」について考えることはとても大切なことなのではないかと思うのです。

自分は何者なのか,何ができるのか,価値のある人間なのか…といったことは,おそらく,生きている限り“再帰的(reflexive)に”考え続ける

ことでしょう。

「そんなことを考えたって不毛だ。誰だって何者にかなんてなれない,なる必要はない」と冷ややかに諭すもう一人の自分もいます。一方で,それでも自己の存在を許すことができるような「何か」が欲しいのです。 

こうしたことを考える際に,この作品のなかで登場してくる人物や,その言葉の一つ一つがとても大事なヒントを与えてくれるように思うのです。

この作品は若者の“リアル”な青春模様を描いていると形容されることが多いようです。実際,そうした側面も多分にあるのですが,取り扱っているテーマは決して,若者に限られるものではないのではないかなと感じました。

私たちは,それぞれの“リアル”を生きています。視点や角度を変えればもっとたくさんのことが見えてきます。

この作品を読んだ一読者の感想に過ぎませんが,こうした見方もあるのかと思いつつ,一度読んだことのある人にも,これから初めて読む人にも,手に取って自己と対話しながら読んでみて欲しいのです。

読み終えた先に劇的な“リアル”が待っているというわけではありませんが,少し世界の捉え方が,そして行動が変わっていくのではないかと思います。

おすすめした理由は以上のように極めて個人的なものでしたが,一歩を踏み出せない人や進路に迷っている人,自分はどういう存在なのかと深く考え直してみいという人は,ぜひ手に取って読んでみてください。また,映画化もされているので,そちらも視聴してみてください。

この本のおすすめポイントは?

  先ほど,お勧めする理由のところでもお話した私の心に突き刺さったセリフ(シーン)を以下に示しました。

瑞月の内定祝いに「就活対策本部」に集まった5人。

楽しく話しているなか,隆良が烏丸ギンジ(拓人の友人で劇団代表)とのコラボがなくなったことを告げる。その理由というのも「考え方が合わなかった」ためだという。

隆良は続けて言う

「そう考えてみると,会社に入るとかって,ホント,俺には向いていないんだなって思うわ」

「会社って考え方が合うわけでもない人と同じ方向を向いて仕事しなくちゃいけないんだろ?その方向っていうのも,会社が決めた大きな目標なわけで納得せずに,自分を殺して,毎日毎日朝から晩まで働くって,そんなの何の意味があるんだよって俺は思う」

「今回のことだって,無理やり向こうのペースに合わせてやったて,作品の価値が落ちるだけ…十点,二十点のものをお客さんに見てもらうなんて,そんな失礼なことは俺にはできないから」

という隆良の発言に続く瑞月の発言…(以下)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「十点でも二十点でもいいから,自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて,これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に,自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう,見てもらえないんだよ,私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって,あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」

[**²: p. 254]

 

(写真はイメージです。)

そういうと瑞月は我に返って,部屋から出ていく。

そして,瑞月を追いかけようとする拓人は隆良にむけて発言する(以下)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「頭のなかにあるうちは,いつだって,何だって,傑作なんだよな…お前はずっと,その中から出られないんだよ」

[**²: p. 254-255]

たとえ十点でも二十点でも,うまくいかなくて格好悪くてもやってみること,頭の中で考えてばかりで,何もしなければ評価すらしてもらえないこと…当時の自分にとって,また今の自分にとっても,かなりグサッとくるセリフでした。

GTPの前も,GTPの間も,なかなか行動を起こすことが出来ず大きな失敗をした自分にとって,これらの言葉は非常に重い意味をもちました。

この作品に,そしてこの言葉に出会ったから,「まずやってみる,行動してみる」ことができるようになったわけではありません。しかし,この言葉に出会う前と後では,ほんの少しだけ,しかし,確実に,何かを変えたいと動き出すことができるようになったのです。

なかなか新しいことに挑戦することができない人や,「どうせ考え方が合わないから」,「うまくいきっこないからやっても無駄だ」,「格好悪いからやってみたくない」と思っているそこのあなたに,ぜひ,この作品を読んで,

「とりあえずまあやってみること」の重要性

を知ってほしいのです。この作品を読むことは,あなたにとって大きな一歩にはならないかもしれません。しかし,確実な一歩を踏み出すための後押しにはなるはずです。

そして,この作品を読んだ後に,その一歩目をGTPで踏み出してください。きっと,その先に,少しだけ変わった素敵な世界が待っているはずです。

まとめ、考察

ここまで読んでくださり,ありがとうございます。拙文を読んで,少しでも興味・関心をいだかれた方がいらっしゃれば幸いです。

また,今すぐ気になる!見てみたいという方は参考程度にですが以下に劇場版「何者」の予告動画のURLを記載しておきましたので,そちらを(https://www.youtube.com/watch?v=rJrEzLBI0R0)をご確認ください。

 本の紹介というよりは,長々と自分語りをしてしまいました。最後までお付きあいしていただき,本当にありがとうございました。本作品を読んで,興味・関心が湧いた方は,以下の書籍も是非読んでみてください。それでは。また,どこかで。

 

Anthony Giddens (1990). The Consequences of Modernity. Stanford University Press. (アンソニー・ギデンズ 松尾 精文・小幡 正敏(訳) (1993). 近代とはいかなる時代か?―モダニティの帰結― 而立書房)

朝井 リョウ (2019). 死にがいを求めて生きているの 中央公論社

朝井 リョウ (2016). 何様 新潮社

浅野 智彦 (2015). 「若者」とは誰か―アイデンティティの30年【増補新版】 河出書房

村田 沙耶香 (2016). コンビニ人間 文藝春秋

斎藤 環 (2016). 承認をめぐる病 筑摩書房

山竹 伸二 (2011). 「認められたい」の正体 講談社

【参考・引用元】

**¹ https://www.shinchosha.co.jp/book/126931/

**² 朝井 リョウ (2012). 何者 新潮社

Profile

上野 弘晶 (Hiroaki Ueno)

神奈川県出身。東京学芸大学教育学部卒業,東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。集団での意思決定や問題解決に関する研究をしています。

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